逮捕された強盗の実行役が、こんな趣旨の供述をすることがあります。
「初めて行った家なのに、カメラがない裏口も、塀の低い場所も、事前に全部知らされていた」
おかしいと思いませんか。近所で不審者の目撃情報はなかった。うろつく人影もなかった。
それなのに、犯人はその家の弱点を知り尽くしていた——。
答えはシンプルです。下見は、現地に来ずに終わっていたのです。
以前の記事で、トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)が犯行前に必ず「下見」をすることをお伝えしました。今回はその続編として、いま主流になりつつある「デジタル下見」——ネット上の情報だけで進む偵察の手口と、今日からできる対策を解説します。
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「デジタル下見」とは?
デジタル下見とは、ストリートビューや地図アプリ、SNS、ネット上の公開情報を組み合わせて、現地に足を運ばずに標的の家と住人を調べ上げる偵察手法のことです。
従来の下見には「不審者として目撃される」「防犯カメラに映る」というリスクがありました。
デジタル下見にはそれがありません。犯人側はノーリスクで、何十軒でも比較検討できてしまう。
そして住人側から見た最大の問題は、下見されたことに気づくチャンスがゼロだということです。
ご近所の目も、カメラも、デジタル下見は捉えられません。
手口①: ストリートビューで「家」を調べる
地図サービスのストリートビューを使えば、画面の前に座ったまま、次のことが分かります。
- 塀や植え込みの高さ——乗り越えやすいか、身を隠せるか
- 玄関・勝手口・窓の位置と、道路からの死角
- 防犯カメラ・センサーライトの有無
- 駐車している車のグレード——資産レベルの推定材料
- 雨戸やシャッターの状態、家の築年数や手入れの様子

かつては現地を歩いて確かめていた情報のほとんどが、いまは検索一つで手に入ります。
過去の撮影画像に切り替えれば、「数年前から同じ車がある」「シャッターの状態が変わっていない」といった暮らしの変化まで読み取れるのです。
手口②: SNSで「人」を調べる
家の構造が分かったら、次は住人です。SNSの投稿からは、想像以上のことが読み取れます。
- 生活パターン——朝のジム投稿、平日ランチの写真。「この時間帯は留守」が積み重なる
- 旅行のリアルタイム投稿——「今日から3泊で沖縄!」は、犯人にとって留守の予告状
- 写り込みからの自宅特定——窓からの風景、電柱の管理プレート、特徴的な建物。写真の背景から住所を割り出す手口は実際の事件でも使われています
- 家族構成と在宅状況——子どもの学校行事、単身赴任、ペットの有無まで投稿から分かる
- 資産のアピール——新車、時計、ブランド品の購入報告は「この家には金目のものがある」という広告になり得ます

ひとつひとつは何気ない投稿です。しかし他人が時系列で並べれば、それは生活の設計図になります。
手口③: 情報が合わさったとき、「侵入計画」が完成する
怖いのはここからです。トクリュウでは、情報を集める者、計画を立てる者、実行する者が分業されています。
デジタル下見で集められた「家の弱点」と「住人の行動パターン」は名簿として整理され、闇バイトで集められた実行役に「指示書」として渡されます。
冒頭の実行役が家の弱点を知り尽くしていたのは、こういう仕組みです。
あなたの家の情報は、あなたの知らないところで収集され、評価され、共有されているかもしれない——これがデジタル下見時代の現実です。
今日からできる「デジタル露出」チェック
では、どうすればいいのか。まず、ネット上の「わが家の露出」を減らすことから始めましょう。
- 自分の家をストリートビューで検索してみる——犯人と同じ目線で、死角やカメラの見え方を確認する
- 気になる場合は、ストリートビューの「ぼかしリクエスト」を申請する(画像内の「問題の報告」から、自宅にぼかしを入れるよう無料で依頼できます)
- SNSの位置情報タグをオフにし、公開範囲を見直す
- 旅行の投稿は帰宅後に。リアルタイム投稿は留守の宣言と心得る
- 自宅周辺・窓からの風景・玄関まわりが写る写真は投稿前に見直す
- 家族(特に子ども)のアカウントも一緒に確認する——家庭で一番露出が多いのは、たいてい一番若いメンバーです

それでも「見られている前提」で。狙わせない家へ
ただし、正直にお伝えすると、デジタル露出を完全にゼロにすることはできません。
ストリートビューは公開情報ですし、家族や友人の投稿まではコントロールできないからです。
だからこそ発想を変えましょう。「見られている前提で、選ばれない家になる」ことです。
デジタル下見は、家を「比較」する作業です。
画面の中で防犯カメラやセンサーが確認できる家は、その時点で候補から外れやすい——わざわざリスクの高い家を選ぶ理由が、犯人側にはないからです。
玄関や死角になりやすい場所に防犯カメラを設置し、窓には開閉センサーを。
「この家は面倒だ」とデジタル下見の段階で思わせることが、そのまま防御になります。
まとめ
最後に、今回のポイントを5つにまとめます。
- 下見は「現地に来ずに」行われる時代。目撃情報がない=安全ではない
- ストリートビューで家の弱点、SNSで生活パターン。二つ揃えば侵入計画になる
- まず自宅をストリートビューで確認し、必要ならぼかし申請を
- 旅行投稿は帰宅後に。位置情報と公開範囲を家族全員で見直す
- 露出はゼロにできない。「見られても選ばれない家」へ——カメラとセンサーの見せる防犯を
デジタル下見に、あなたが気づくことはできません。でも、備えることはできます。画面越しの偵察者に「この家はやめておこう」と思わせる家づくり、今日から始めてみてください。




